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大阪地方裁判所 平成6年(わ)408号 判決 1994年7月12日

本店所在地

大阪市住吉区長居二丁目一一番一号

三和住宅建設株式会社

右代表者代表取締役

松本義昭こと李義昭

右代表者代表取締役

吉井成和こと金成和

国籍

韓国(済州道南済州郡大静面日果里)

住居

大阪市生野区田島五丁目一六番一七号

会社役員

松本義昭こと李義昭

一九四九年二月一六日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官濱田毅出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人三和住宅建設株式会社を罰金七六〇〇万円に、被告人李義昭を懲役二年にそれぞれ処する。

被告人李義昭に対し、この裁判の確定した日から四年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人三和住宅建設株式会社(以下、「被告会社」という)は、大阪市阿倍野区昭和町五丁目九番一号に本店事務所を置き(平成二年一二月一日に本店事務所を同市住吉区長居二丁目一一番一号に移転)、不動産の売買及び仲介業等を目的とする資本金一〇〇〇万円の株式会社であり、被告人李義昭(以下、「被告人」という)は、被告会社の代表取締役で、かつ、実質的経営者として被告会社の業務全般を統括している者であるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと考え、平成元年四月一日から平成二年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が別紙1の修正損益計算書記載のとおり七億八〇二七万九九八二円であったのに、不動産売買益を除外するなどの行為により、その所得の全部を秘匿したうえ、平成二年五月三一日、大阪市阿倍野区三明町二丁目一〇番二九号所在の所轄阿倍野税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の欠損金額が二億九九四六万五一九七円で、これに対する法人税額が零円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙2の税額計算書記載のとおり、被告会社の右事業年度の正規の法人税額三億一一一四万六二〇〇円を免れた。

(証拠の標目)

注・以下において、証拠中、末尾の括弧内に記載した漢数字は、証拠等関係カード(請求者等検察官)の証拠請求番号を示している。

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書二通(七八、七九)

一  遠岳誠司の検察官に対する供述調書(七六)

一  丁田哲夫の検察官に対する供述調書(七七)

一  大蔵事務官作成の査察官調査書七〇通(六ないし七五)

一  大阪法務局登記官橋本敦各認証の登記簿謄本、閉鎖役員欄用紙謄本二通(八二、八四、八五)

一  被告会社代表者吉井成和作成の証明書(八六)

一  大蔵事務官作成の「所轄税務署の所在地について」と題する書面(五)

一  大蔵事務官作成の証明書(法人税確定申告書写についてのもの)(二)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(一)

(法令の適用)

罰条

被告会社 法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項(罰金は情状により免れた法人税額に相当する金額以下)

被告人 法人税法一五九条一項

刑種の選択 被告人について、所定刑中懲役刑を選択

主刑 被告会社を罰金七六〇〇万円、被告人を懲役二年

刑の執行猶予 刑法二五条一項(被告人に対し、四年間猶予)

(量刑の理由)

本件は、不動産売買及び仲介業等を営む被告会社の代表取締役で、実質的経営者でもある被告人において、被告会社の一事業年度の法人税三億一一一四万円余を脱税した事案であり、脱税額が一事業年度のものとしては巨額であるとともに、ほ脱率も欠損申告により全額一〇〇パーセントという脱税規模の大きなものであり、その脱税の態様も、従業員の個人事業所得を装って売上を除外し、あるいは、ダミー法人、個人の取引介在を仮装して不動産売買利益を圧縮除外するなどの方法で利益を隠匿したもので、悪質な事案で、納税義務に著しく違反する反社会性の強い犯行といわなければならない。そして、脱税の目的は、いわゆる圧縮取引を行なうための裏金の捻出や会社を発展拡大させるための資金蓄積にあったなどとされているものの、前者については、それ自体が取引相手の脱税につながることであり、後者についても、その目的自体は問題がないとしても、そのために脱税を行なうことはそもそも許されるはずがなく、いずれにしても動機においてとくにしん酌すべき余地はないものであって、以上の点などからすると、被告会社及び被告人の刑責は相当重いというべきである。

しかし、本件において、脱税の目的は被告人の個人的用途に充てるためではなく、実際にも、被告会社の物件購入費や前記の圧縮取引の裏金の支払に充てられており、被告人自身が費消した脱税所得はなかったと認められること、被告会社において、本件脱税にかかる法人税本税及び附帯税について、起訴外の土地譲渡益に対する特別課税分もあるためにその多くが未納であるものの、起訴前に修正申告を済ませて分割納付中で、平成六年四月末で計一億一八二〇万円が既に納付され、同年六月末までにさらに三六〇〇万円が納付される見込みで、その余についても地方税も含めて今後順次分割納付される予定であること、また、被告人は、本件摘発後の初期の段階は別として事実関係を認めて、本件を真剣に反省し、今後の再過なきことを誓っており、被告会社においても、新しく顧問税理士を依頼し、その指導を受けるなどして、経理体制を改善し、適正な税務申告に努めようとしていること、さらに、被告人には業務上過失傷害罪による罰金刑を受けた以外に前科はないことなど、被告人及び被告会社のために量刑上有利にしん酌すべき事情がある。

そこで、以上のほか、諸般の事情を総合考慮して、被告会社及び被告人をそれぞれ主文掲記の刑に処したうえ、被告人に対しては、従業員を擁する被告会社における立場やその家族状況等も考え、とくにその刑の執行を猶予することにした。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 竹田隆)

別紙1 修正損益計算書

<省略>

別紙2 税額計算書

<省略>

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